「…やめろ。」








静かに、鋭い瞳で言われて少しゾクゾクした。と言うのは内緒にしとこう。











「い・や。」


そう言うと溜め息をつかれた。


私は雇われくノ一。
今回のお仕事のためにはこいつをたぶらかすのが一番手っ取り早い。



そう思って初めて寝所に忍び込んだのはいつだったか。



思っていたより良い男で、自分の任務をペラペラと喋ってしまうまであまり時間はかからなかった気がする。





「一回でいいから遊ばない?」

「断る。」




案外硬派。
良い男だから結構遊んでんのかと思ってたけれど。




「自分でいうのもなんだけど…楽しいわよ?」

「…断る。」




ちょっと揺れた?
いつもなら速攻で今いるこいつのお腹の上から叩き落とされるのに。





もしかして





「溜まってる?」

「うっせぇ。」





…落とされた。
しょうがないので布団の横で体育座り。
相手の男は布団の上で胡座をかき、枕元の煙草に手を伸ばした。





真選組副長 土方十四郎

鬼の副長と恐れられ、猛者揃いの侍集団を名実ともに仕切る名将。








そして何より、良い男。



癖のない真っ直ぐな髪とそれと同じ切れ長の漆黒の瞳。




というかどストライク?







「女が足繁く、しかも夜中に通ってやってるっていうのに。」


あんたは何にも感じないわけ?


そう言って下からのぞき込むと、彼はそっぽを向いて紫煙を吐き出した。
苦い香りが鼻を掠める。



「馬鹿か。そんな女は趣味じゃねぇよ。」






んー残念。




けどね、こんなに良い男逃す気はさらさらないのよ。





「ごめんなさい?私、諦める気はないの。」

トサッという軽い音がする。

下には驚いた顔した彼。






…瞳孔開いてますよお兄さん。







「絶対落としてみせるわよ。」

耳元、吐息が触れるほど近くで囁くと、耳朶が一瞬で真っ赤に変わる。





あら、意外に初?





「じゃっ!またねっ」






月明かりも遠くなった外へと飛び出す。
彼の左手が掠めた気がするが、立ち止まる気はない。



手に入れると決めたからには、手段は選ばないわ。















お仕事よりも、大事なこと。













次の日、陽光の中、当たり前顔で洗濯を干す女を見て、土方は煙草をポロリと落とした。

「初めまして、副長さん。今日からこちらで働かせていただいております賄いの…」





それは愛!

お仕事なんかとっくの昔にほっぽってますよ。